事務局通信・別冊

文学作品展示即売会「文学フリマ」の事務局代表・望月の日記です。こちらは個人的な話題メインで書き連ねていきます。

SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者

昨夜、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を渋谷シネクイントで観てきました。

『SRサイタマノラッパー』シリーズの3作目で、北関東三部作の最終章とされる作品です。

私は多くの人がそうであるようにライムスター宇多丸さんがラジオ「ウィークエンドシャッフル」で激賞していたのをきっかけにこの作品を知りました。

2009年にユーロスペースでのリバイバル上映で一作目の『SRサイタマノラッパー』を観ました。

公民館でのライブシーンでは涙がでるほど爆笑し、ラストシーンでは本当の本当に涙してしまいました。

これはただラッパーを夢見る人の話じゃない。

自分のやっていることをまるきり理解されない相手、絶望的にわかりあえない人たちを前にしても表現者であることをやめられない人たちであれば胸を打たれるに違いない。

そんな大傑作が『SRサイタマノラッパー』という映画です。

この作品の成功をうけて作られた『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』も新宿バルト9で観ました。

こちらは群馬の女子ラッパーを主人公に、前作の主人公であるIKKUとTOMも狂言回しとして登場する第二作です。

前作よりエンタテインメント性を増しつつ、女の友情や女にとってのグローイング・アップという難しいテーマを巧みに描いた良作です。

一作目を観た時は「ありあまる情熱と偶然によって奇跡的に生まれた傑作かもしれない」とも思ったのですが、二作目を観た時に入江悠監督が間違いない才能と技術を持っていると確信しました。

 

そして待望の3作目にして完結編が『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』です。

これは一作目に登場したIKKUと袂を分かつラッパー・マイティを主人公としており、一作目の直接的な続編と言ってよいでしょう。

これまでのコメディ色を残しつつも、暴力やトライブ間のしがらみなどこれまでの「SR」シリーズが避けてきたヒップホップの抱える暗部を描いています。

象徴的なのは、物語の序盤でせっかくMCバトルの決勝まで勝ち上がったマイティが、クルーの先輩に「相手は今度一緒に演るグループのメンバーだからわざと負けろ」と指示される展開です。

8 Mile』であれば、このMCバトルの決勝がクライマックスです。

しかし、マイティは自分のすべてを投じるべき舞台そのものを、ヒップホップ的なしがらみによって剥奪されてしまいます。

8 Mile』的成功の舞台に上がり損ねたところから、『SR3』の物語が始まるわけです。

正直この時点で、もうちょっと泣けてしまいました。

 

また、これまで1シーン1カットを旨としてきたこのシリーズですが、『SR3』のクライマックスではおよそ15分に及ぶ1カットがあります。

逃げなくてはいけないマイティが、かつての仲間達が上がっているステージの輝きに向かって、思わず歩き出す、あの背中!

第一作目から観てきた者としては、あのIKKUとTOMがようやくステージに立ったという喜びと、その夢から逃げようとしても引き寄せられてしまうマイティの悲しみが、15分の途切れの無い1カットで刻一刻と凝縮されていくという、比類無い映像体験を味わうことができました。

 

それにしても。

本当にこのシリーズはこれで終わりなんでしょうか?

まだまだIKKUとTOMの珍道中を観たい、マイティの復活を観たい、なんなら他のSHO-GUNメンバーのその後や、TKD先輩のかつての伝説の一端をもっと観たい。

アイツらにまた会いたい!

そう思わせるSR完結編でした。

『SRサイタマノラッパー』シリーズ、掛け値なしにオススメです。
映画『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』予告編